#2 『海辺のエトランゼ』制作のお話・前編
紀伊先生は「キャラクターデザイン・監修」という立場で制作に関わっていますが、詳しいお仕事内容を教えてください。
紀伊
キャラクターデザインというのは、アニメーターさんが人物を描く時に参考にする設定画作りの作業なのですが、今回はメインとサブの一部を自分で担当させてもらいました。他だと、背景美術や、撮影の方向性の確認をしたり、作画だと直接、修正を加えてニュアンスを伝えたりなどです。一応全般的なところを見させてもらっていますが、聞かれたらこんな感じですかね? と返す感じです。原作者の立場なので「そこは適当でいいよ」とかも言えるのですが、言うだけって楽だなぁと思ったりしました。
キャラクターデザインではどのようなところに気を配りましたか。
紀伊
細かすぎても作画が大変になりますし、簡素すぎても間が抜けてしまうので、そのバランスは意識しました。たとえば、猫の「しょうゆ」の柄が原作から変わっているのも、全体のバランス調整として行っています。私個人としてはいい経験ができたと感じていますが、やってみるとやはり難しい仕事だと感じました。
本作は脚本家を立てず、監督がプロットを準備してそのまま絵コンテを切ったそうですね。
大橋
基本は原作通りにやりましょうということだったのと、直接紀伊さんにラインだったりで意見を聞ける間柄ということもあり、私がシナリオのようなものを作成することになりました。ただ、「こういう映像にしたい」という方向性はかなり共有できていたので、すべて相談するというより「これで合ってるよね?」という確認の意味合いが強かったです。とはいえ、やはり悩んだ場面もありまして……。そんなときは紀伊さんが漫画のネームのようなものを描いてアイディアを出してくれたりして、助けてくださいました。
紀伊
私は監督からの相談を受けながら、「しっかり考えてくれているなあ」とありがたく思っていました。アフレコに立ち会ったときに改めて全体を流れで観ることができたのですが、監督が加えたシーンやアイディアがすごく活きていて、一本の映画として楽しむのにいい形になったと感じます。
現場のスタッフも原作好きが集まっているとお聞きしました。
大橋
アニメーターさんはもちろん、美術や音響の現場など、いろいろな場所で「じつはファンなんです」という方がたくさんいました。あとは原作者がキャラクターデザインを描いていることもあり、お仕事を引き受けてもらいやすい傾向はありましたね。「設定画が見たければ、原画やってください」とか(笑)。制作を通じて、愛されている作品であることをひしひしと感じました
(#3に続く)