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映画『どこよりも遠い場所にいる君へ』プロダクションノート

2025年「カフネ」での本屋大賞受賞作家・阿部暁子による話題の青春ファンタジーを、松竹×ポニーキャニオン×トムス・エンタテインメント(第6スタジオ)という強力な布陣で劇場アニメーション化した映画『どこよりも遠い場所にいる君へ』。監督を務めるのは、『HIGH CARD』などでスタイリッシュな映像美と精緻な人間ドラマを描いてきた和田純一。本作の制作過程には、クリエイターたちの並々ならぬ熱量と、数々の「奇跡的なシンクロ」が隠されていた。企画の立ち上げから、美術、キャスティング、そして音楽に至るまで、本作がどのようにして形作られていったのか。制作陣の証言をもとに、その裏側に迫るプロダクションノートをお届けする。

■「他作品を蹴ってでも、青春ものを」──企画の立ち上げ
ことの始まりは2019年にまで遡る。松竹の向井紘一郎プロデューサーが、新宿の書店で原作小説と出会ったことが全ての起点だった。「とにかく主人公の“和希”に惹かれました。伏線の回収やスケール感に、映画ならではの可能性を強く感じたんです」と向井は振り返る。しかし、折しものコロナ禍で企画は一時停滞。再び動き出したのは2023年のことだった。別作品でトムス・エンタテインメント(第6スタジオ)の川邉大輔チーフアニメーションプロデューサー、溝上猛アニメーションプロデューサーと縁があったことから、今回の座組が結実。監督として白羽の矢が立ったのが、和田純一だった。「実は和田監督には、別の某有名作品のオファーもしていたんです」と明かす川邉。しかし、オリジナル作品や青春ものを強く志向していた和田監督は「青春ものをやらせてほしい」と直訴し、本作を選んだという。「企画書を見た時点では『よくある題材』かとも思いましたが、原作を読んだら大号泣してしまって(笑)。人間のど真ん中から逃げずに描いているこの作品に、本気で挑んでみたいと思ったんです」(和田)

■「格好つけない。人間のど真ん中を描く」──脚本とキャラクター
スタイリッシュな演出や凝った構図を得意とする和田だが、本作ではあえて「格好つけない」ことを意識。「カメラに向かってストレートに目線を合わせるような、泥臭いところも含めて『人』を描くことに集中しました」と語る。脚本には『ジョゼと虎と魚たち』などを手掛けた桑村さや香を起用。原作の魅力を1本の映画(約2時間)に凝縮するため、あえて和希の視点を増やし、七緒と過ごすひと夏を濃密に描く構成へと再構築した。「和希から見た七緒を通して、彼女のことを好きになってもらいたかった。そうすることで、七緒と和希の結末や、ラストの手紙のシーンの切なさが増すと確信しました」(和田)。さらにその上で、原作のキャラクター性をいささかも損なわない見事な脚本術は、桑村の確かな手腕によるものだろう。
キャラクターデザインは、イラストレーターとしても人気のへちまが抜擢された。向井が「原作のイメージ通り」と絶賛する透明感あふれるデザインだが、監督からは細部にわたるオーダーも。「線が細く令和的な和希に対して、七緒には少し“昭和感”や強引さが欲しかった。加えて完全無欠の美少女ではなく、少しだけ歪な感じを出すために、目もとのホクロで非対称性を与えました」(和田)。また、物語のキーパーソンとなる三島たまきについては、七緒とは正反対に「委員長感」を足すなど、デザイン段階からキャラクターの深みが練り上げられていった。

■「各々が夢中になり、約1万枚もの写真を撮った」──隠岐諸島ロケハンと妥協なき美術
本作の舞台となる「采岐島」は、島根県の隠岐諸島(島前の中ノ島など)がモデルとなっている。現地の空気をフィルムに焼き付けるため、監督や大西穣(美術監督)、坂本竜(美術設定)らは徹底的なロケハンを敢行。その熱心さは「時間が迫っても、みんな全く動こうとしないんです。各々が夢中になり、何千枚もの写真を撮っていました」と川邉が苦笑するほど。物語の鍵となる「神隠しの入り江」は国賀海岸の摩天崖をベースにしており、大邸宅の「高津邸」はGoogleマップで見つけた家をモデルに、長野や福井にある古民家の要素を組み合わせるなど、複数のロケーションを統合して采岐島の世界観が構築されていった。「驚いたのは、普通に道路に馬糞が落ちていたり、自販機に巨大なカブトムシがへばりついていたりしたこと(笑)。都会育ちからすると想像を絶する環境でした」と和田監督は笑う。また現地の空気感は、ベテラン声優・千葉繁が演じる老医による「コテコテの方言」によっても色濃く再現されている。方言指導を入れ、何度もテイクを重ねて録られたというこだわりの方言芝居にも注目だ。

■「主演二人は満場一致」──キャスティングとアフレコ
和希役の石橋陽彩、七緒役の永瀬アンナは、オーディションで満場一致で決定した。石橋に対しては「どこか壊れちゃいそうな危うい雰囲気がある王子様」、永瀬に対しては「テンプレートではない、がなり声や息遣いを含めたナチュラルな生っぽさ」が決め手になったという。そして、物語の鍵を握る芸術家・高津役には玉木宏が抜擢。隠岐諸島は玉木自身のルーツ(祖父母が住んでいた地)でもあり、まさに運命的なシンクロと言える。「コンテ段階から玉木さんを想像して描いていました。正しくない大人だからこそ和希に言葉が届く。柄が悪い中にも優しさと可愛らしさがあり、本当に素晴らしかったです」と和田は絶賛する。アフレコ現場では、永瀬が持ち前の明るさで場を和ませ、和希・七緒・高津の3人が初めて顔を合わせるシーンも同時収録され、生き生きとした掛け合いが生まれた。そしてさらなるサプライズだったのは、和希を見守る担任教師・仁科役に藤木直人を起用した点。和田の強い要望で実現した起用だが、石橋と藤木は映画『リメンバー・ミー』以来、実に8年ぶりの再共演。「仁科は正しい大人として振る舞うが、だからこそ和希には届かない。そんな対比を表現できる方にお願いしたかった」と和田が語る通り、最後のピースがハマったことで、完璧なキャスト布陣が完成した。

■「秒間24コマでは追えない」──音楽と超絶技巧のピアノ
音楽面でも本作は異彩を放っている。ポニーキャニオンのプロデュースにより、元スーパーカーの中村弘二がアニメーション映画の劇伴に初挑戦。「ピアノが重要になる物語なので、あえて劇伴ではピアノを封印してほしい」という音響監督の難題を見事に昇華し、島独自の浮遊感とノスタルジーを生み出している。フィルムスコアリングの手法を取り入れ、映像と音楽がビタッとハマった瞬間の感動は、スタッフ陣を大いに震わせたという。
また劇中で圧倒的な存在感を放つピアノ演奏は、コンクール優勝経験も持つピアニストの小瀧俊治が担当。『ラ・カンパネラ』や『翼をください』の超絶技巧アレンジが披露されるが、和田監督も「ピアノを舐めてました。秒間24コマのアニメーションでは指の動きが追いきれなくて(笑)」と悲鳴を上げるほどのすさまじい作画作業となった。本作における「最大のアクションシーン」とも言える渾身の演奏シーンにも注目してほしい。
主題歌・劇中歌を担当したのは、透き通るような歌声と等身大の歌詞で同世代から圧倒的な支持を集めるシンガーソングライター・とた。劇中歌「鳳仙花」は、和希達の住む采岐島の風景に想いを馳せて作られた楽曲。また主題歌については、「映画のラストシーンから繋がるように、和希が弾くピアノの音から入ってほしい」という監督からのオーダーを受けて書き下ろし。こうして生まれた主題歌「オリーブ」は、作品世界と完璧にシンクロしつつ、物語をエモーショナルに締めくくっている。

■「虹が光ってるんです。心の光で(笑)」──手作り感と作品への情熱
緻密に作り込まれた本作だが、中盤の“あるシーン”については監督の遊び心(?)も。和希たちが丘から虹を見るシーンについて、和田監督は「光源が逆だから、科学的に言えばこの場所から虹は絶対に見えないんです。でもこれは虹が光ってる。心の光なんですよ(笑)」と周囲を説得したことで、ドラマ中盤のヤマ場をエモーショナルに演出することに成功し、大きな見どころとなっている。また、終盤で重要な意味を持つ「七緒の手紙」の文字は、なんと溝上アニメーションプロデューサーの母親がチーム内オーディションを勝ち抜いて書いたもの。高津の達筆な文字も川邉チーフアニメーションプロデューサーが自ら書くなど、至る所にスタッフの“手作り”の愛情が散りばめられている。

最後に本作に込めた想いについて、和田監督はこう語る。「『離れていた人に思いは届くのか?』。時間や空間、立場が違っても、少しでも相手の考えていることが伝わるといい。そんな普遍的なテーマをど真ん中でやれたことは、すごく幸運で嬉しいものづくりでした」。また、向井プロデューサーも「それぞれ悩みを抱えた登場人物たちが、最後は前向きに歩み出す。映画ならではの『観てよかった』という達成感を感じてもらいたいです」と言葉に力を込める。「青春時代にこれが欲しかった、と思える映画になっている」(溝上)、「23年間映画館で泣いていない自分が泣ける映画を目指した」(川邉)とプロデューサー陣が自信を覗かせる通り、心を大きく揺さぶる感動作であることは間違いない。事実、先日ロサンゼルスで上映された際も、アメリカの観客が涙を流し、「思いは伝わる」ことが見事に証明された。クリエイターたちの技術と情熱、そして数々の奇跡的な巡り合わせが結実した『どこよりも遠い場所にいる君へ』。和希と七緒が紡ぐ奇跡の夏の物語を、ぜひ劇場の大きなスクリーンと極上の音響で体感してほしい。

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