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観世能楽堂 特別イベント「Noh & Animation Experience TOKYO 2026」レポート

この日のイベントは、能の大成者である観阿弥・世阿弥から約600年の伝統をうけつぐ流派、観世流の活動拠点となる「観世能楽堂」で実施されました。この歴史ある舞台に登壇し、「後ろの葛桶(鏡の間で、能面をつける時に使用される座具)にご着席ください」と案内された花守さんは「ここに座っていいんですか? 自分がここにいていいのか、という気持ちと、座れたという感動でいっぱいです」と感慨深い様子で挨拶をしました。

能楽監修も務めた川口晃平さんによれば、葛桶は舞台上で格のある登場人物が座る、総漆塗り最高級品だとのことで、「皆さんが座っているのは、数々の偉い能の先生方が座ってきた椅子です」との解説に、黒柳監督も花守さんも「非常に恐れ多いです」と姿勢を正していました。

さらに作品をつくる際には客席側から舞台を観ていたと切り出した黒柳監督は、舞台上から見渡す客席の光景について「ここに立っていること自体が不思議な感覚。客席を見る眺めは今回が初めてなので、こういう風に見えているのかと思った」と語ると、川口さんも「ここから意外と知り合いが見えたりするんですよ」と能楽師ならではのコメントを付け加え、会場を沸かせました。

今回、世阿弥という歴史上の偉人を演じるにあたり、花守さんは「教科書などで観阿弥・世阿弥という存在自体は知っていましたが、改めて演じるにあたって、人を惹きつけたいという気持ちが一番強くありました」と語ると、「わたしたちの認識としては、風姿花伝を書かれたり、能を送りだした人という印象が強かったんですが、“初心忘るべからず”という言葉も残されたと知りました。この言葉は、役者をする中で多くの先生方から教わってきましたが、これが世阿弥の言葉だったんだという驚きがありました。この『初心』というのは、単に『初心者の頃の未熟な気持ちを忘れるな』という意味だけではないんです。芸を重ね、3年目、4年目、5年目と違う時間ではじめて触れた時の心を覚えておき、ていねいに重ねていくことが大事なんだ、という意味なのだと知りました。鬼夜叉を演じる上でも、その“初心を重ねていくこと”を意識して演じています」とコメントしました。

そしてアフレコ前に台本の読み合わせを行った際に黒柳監督からは「表情がコロコロと変わっていく中で、その表情と、実際に抱いている感情が一致しなくてもいい」と言われたとのことで、「その言葉と、先ほどの“初心”の話がどこかリンクするような気がして。それを胸に最終話まで演じさせていただきました」と真摯(しんし)に語る花守さんでした。

これに対し黒柳監督は、「原作からアニメーションへ落とし込む際に、原作に対する解釈とは少し違うところもありました。そのあたりを花守さんに演じていただくというところで、難しいことをお願いしたかなと思っていました」と振り返ると、「最初の方はより感情豊かな表現に振っていたんですが、そこから徐々に感情をそぎ落としていく、という演出を意識しました。やはり最初から感情があふれてなかったら、その変化が分かりにくいだろうなと思いましたし、同時に最後の方に何をするのか、というところも見せたかった。だから冒頭の方では笑っているかと思ったら、すぐに怒ったり。怒っていたかと思ったら泣いていたりといったことを要求していましたね」と花守さんに向けた繊細な演技指導の意図を明かしました。

そんな鬼夜叉について「それこそ花がほころぶ、みたいな笑顔をしてくれる男の子だな、というのは、オーディションの時にいただいた絵からも感じていました」と感じていたという花守さんは、「やはり“花”という言葉も世阿弥にとっては、なくてはならないワード。だから私たちの知る世阿弥という存在とリンクするワードはお芝居の中でも大切にさせていただきました」と明かすと、「お名前にも花が入っていますからね」と指摘した溝口プロデューサー。それには花守さんも「名前キャスティングですか!」と驚いた様子を見せて、会場を沸かせました。

現在、第4話まで放送されている「ワールド イズ ダンシング」だが、その感想について能楽監修の川口さんも「観阿弥が『俺の時代は俺がやる。その後の新しい時代はお前が作っていけ』と鬼夜叉に告げるシーンにはグッときましたね。われわれも観阿弥が始めたその歩み、世阿弥がつないだ歩みというものを、現代の舞台に立っている者として、同じように次の世代へつないでいかなければならない。その責任感を改めて感じさせられる、グッとくるシーンでした」とコメント。プロの能楽師をもうならせる作品に、黒柳監督と花守さんは「うれしいですね」「ホッとしました」と安堵(あんど)の表情を浮かべていました。

さらにその第4話において、父・観阿弥と鬼夜叉が歩いている印象的なシーンにおいて、黒柳監督から驚きの制作裏話が明かされた。「観阿弥と鬼夜叉がすり足で歩く中、途中でゾーンに入ると思うんですが、あそこは実は(日本画の大家)東山魁夷さんの『道』という絵画をモチーフにしています。その人にしか見えていない世界というものがあるが、それを一瞬、垣間見て、そこに触れたような気持ちになる、といった演出ができないかなと思いました。それと同時に、お前はお前の世界を行け、という心の対話というところも目指しました」。

また4話のもうひとつの見せ場となる「千歳」の舞台シーンについて質問された花守さんは「観阿弥を演じてくださっていた小西さんが本当に背中で私たちにも語ってくださって。現場ではずっと圧倒的な観阿弥でいてくださったんですよね。それを私も背中から受けて、ちゃんと鬼夜叉として圧倒され、飲み込まれることができた。そこは本当に私自身も現場でリンクして演じることができたなと感じつつ、やっぱり先輩たちの背中は遠いし、でもきっと同じ道を歩いていくんだっていうことを感じて。こうやって私たちも歩いていくんだ。こうやって続けていくんだ、という気持ちに一緒になってました」と語りました。

そしてそのシーンの演出について黒柳監督は「舞そのものは、津村禮次郎先生に最初の型をつけていただいて、それを元に描いていきました。今までの猿楽では、テンポは速めにいっていたんですが、翁に関してはよりゆっくりと、大きく見えるような表現を目指しました。ただアニメーションでゆっくり見えるというのは非常に難しいんです。崩れないように描かなければならないので。それをきちっとやるということで、担当してくれたアニメーターには『祈りをこめて描きなさい。適当に引いた線だと見透かされるから』とお願いしました」と並々ならぬこだわりを明かした。

そしてイベントの終盤、花守さんから5話の見どころについて「4話での父とのすり足の夜を超えて、鬼夜叉がちょっと大きくなります。成長します。成長する中でまた新しい出会いがあるんですけれど、またこの出会うこの人たちが本当に個性豊かで、そんな彼らと出会ってまた鬼夜叉がどう変化していくのか。ぜひ皆さんに見届けていただきたいなと思っております」と期待をあおりました。

そして最後に川口さんが「こちらに続いてワークショップも担当しますのでぜひよろしくお願いします!」と会場に語りかけると、花守さんも「本日、歴史ある観世能楽堂の舞台に立たせていただき、本当に恐れ多いなと思いながら立たせていただいたんですが。本当に見てくださっている皆さんが優しくうなずいてくださっているのが心の支えになっておりました。アニメの方もまだ続きますので、鬼夜叉の成長を見届けていただけましたら」とコメントしました。

さらに黒柳監督も「第4話までは『父と子』というテーマで描いてきましたが、第5話からは『創作の苦悩』を描いていきます。僕たちアニメーションというものづくりをしていて、必ずしも毎回名作が作れるわけではなく、失敗を重ねながら名作に近づいていきます。その過程を鬼夜叉の姿を通して描いていけたらと思っています。これからも楽しんでいただけたら」と呼びかけました。

そして溝口プロデューサーも「私自身、10年以上前に能楽を学んでいて、それでこの作品のアニメ化を企画しました。アニメファンだけでなく、能楽ファンの皆さまにも届いているのかなと思っておりますので、これからも放送を見ていただいて、鬼夜叉たちの物語をぜひ楽しんでください」と会場にメッセージを送り、イベントを締めくくりました。

そしてその後は、花守さんと黒柳監督も参加し、川口さんの指導による能のワークショップを実施。「能の歴史解説」「会場全員による世阿弥「老松」の一部を合唱」「能装束・能面の解説」「能装束の公開着付け」「『自然居士』の実演」など盛りだくさんの内容で、観客も興味津々な様子。その中で花守さんが豪華な装束「唐織」を羽織ったり、黒柳監督が「般若」の面を実際に身につけてみせるひと幕も。会場には外国から来た方の姿も見えたが、国籍問わず、能を身近に感じさせるような充実したひとときとなりました。

イベントは明日以降も7月30日(木)まで毎日開催されます。土屋神葉さん、松田洋治さん、朴璐美さんをはじめ音楽の篠田大介さんなどアニメスタッフと観世三郎太さんほか能楽師によるトークとワークショップが実施されます。

イベント詳細はこちら>

観世能楽堂 特別イベント「Noh & Animation Experience TOKYO 2026」
<概要>
◆開催日:2026年7月26日(日)
◆場所:新宿ピカデリー
◆登壇者:川口晃平(能楽師)、花守ゆみり(声優)、黒柳トシマサ(監督)、溝口侃(アニメーションプロデューサー)
※敬称略

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