スペシャル

監督・谷口悟朗インタビュー

フジコや千鶴と共に100年前のパリを体験してほしい

100年前のパリを舞台に女の子2人を描くという、本作のユニークな内容はどのように決まったのでしょうか。

この企画はプロデューサーと、女の子の主人公で企画を練るところから始まりました。

メカやバトルを軸にした少年主人公の作品とはまた異なる方向性を探ろうというのがその狙いでした。

でも地に足がついた感じがしなくて、どうも決まりきらない。

ちょっと異なる視点が必要なのではないかということで、吉田玲子さんに加わっていただくことになりました。

そこで吉田さんが思う“素敵なこと”とか、好きなことを一度自由に足していただいて、そこを再出発点に、いろいろなやりとりを重ねてだんだん内容が固まっていきました。

パリを舞台の一部に、というのは企画当初からあって、吉田さんやリサーチャーの白土さんとも話し合いながらパリが最も輝いていたベル・エポック(19世紀末から第1次世界大戦の開始までの時期)を取り上げようとなったんです。

キャラクターデザインが『魔女の宅急便』の近藤勝也さんというのも、本作の話題のひとつです。

この企画にふさわしい方ということで、制作会社アルボアニメーションのプロデューサー、カルキ・ラジーブさんが直にコンタクトして参加をお願いしました。

近藤さんのデザインは、本当に王道です。

近年のアニメはどうしてもデザインに変化球を取り入れたり、余計な飾りを加えたりしますが、近藤さんのデザインはシンプル。でもちゃんとキャラクターの存在感が伝わってきます。

幸い近藤さんも、本作の企画に興味を持ってくれて、デザインだけでなく大事なシーンの原画も描いてくれました。

谷口監督としても、新たなスタッフ、新たな作風への挑戦になります。演出する上で意識したことはあるでしょうか?

今回は、バレエや絵、あるいは薙刀といった視覚的なエンターテイメント要素は十分そろっています。

だからそれ以外のところは、多少文芸的になってもいいだろうと考えました。ここでいう文芸的とは2つのことをいっています。

ひとつは、善人や悪人がいるのではなく、ひとりの個人としてそこに存在しているということをちゃんと表現すること。

もうひとつは、なにもかもを台詞で説明するのではなく、観客がキャラクターたちの心情を想像する余地のある演出をすることです。

意図的に余白を残す。こういうスタイルは、私の目標でもある高畑勲監督が、『母をたずねて三千里』などでやられていたことでもありますが、久しぶりにそういうところに挑戦できる作品だと考えて取り組みました。

100年前のパリを描くうえでリサーチも大変だったのではないでしょうか。

リサーチャーの白土晴一さんにもお願いして、調べられる限りのことは調べましたが、フランスにも資料が残っておらず、わからなかったこともあります。

ただこの作品は、現代の観客が100年前のパリにリアリティ、もっともらしさを感じていただくところが一番大事なところです。

だから調べたものをそのままは描いていないところもあります。意図的に。

わかりやすい例をあげると、当時のパリの街はリアルに描いたら、そんなにきれいな街ではなくなります。

でもふたりがパリになにを見ているのかを伝えようと思ったら、きれいに見えたほうがいいんです。

二人の感情というフィルターを通してのパリを表現する。一方で、ティザーポスターでフジコが上体を乗り出している屋根裏の部屋、窓の隣にかまぼこ型の突起が描かれています。あれはあの部屋がもともと鳩を飼っていた鳩小屋だったからです。

これはフジコの生活を地に足がついたものに見せるために必要なデティールですから描くわけです。

バレエも、当時のスタイルそのままだと、もっとドスンドスンとした踊りになってしまうので、現代のお客さんが見て「バレエ」とわかるスタイルにしています。

音楽の服部隆之さんにはどんなお話をしましたか。

服部さんの持つヨーロッパ的な雰囲気が、タイトル開けあたりから、存分に味わえる音楽になっています。

素晴らしい仕事をしていただいたと思っています。ぜひ劇場で浸っていただきたい。

パリ国立高等音楽院出身の方なので、そちら方面の我儘はいくつかお願いしました。

例えば、劇中で聞こえてくる音楽については、当時の楽器中心で作ってもらうようにお願いしました。

なので、ルスランのピアノも、当時のピアノの、それもあまり高級でないものを使っています。

バレエの演目で『ジゼル』が登場しますが、映画として見せられる場面は限られており、そこに合うように『ジゼル』の印象的なメロディなどを活かしたアレンジでお願いしました。

これは服部さんでなくてはお願いできなかったオーダーでした。

キャスティングについてはいかがですか。

実写に出ている、声優である、という事は関係なく、バランスの良い配置になったかと思います。

全体にとてもうまくはまりました。

メインの當真あみさん、嵐莉菜さんはもちろん、ルスラン役の早乙女太一さん、オルガ役の門脇麦さん、若林役の尾上松也さん、エンゾ役の角田晃弘さんは想像以上のハマり具合でした。

今回、みなさんにお願いしたのは、声を前に出してほしいということです。

この作品は「声を出すことで、伝えたい気持ちがしっかり伝わる」という考えからですね。

音響監督の若林(和弘)さんは、まだスマホなどがない時代に、伝えようと思ったら大きな声で語らなくてはならないという言い方で、作品の演技の目指すところを伝えてくれました。

この作品を見たお客さんにはどんな気持ちになってほしいでしょうか。

いい意味で、幸せな気分で映画館を後にしてほしいです。

その「幸せ」というのは、「ふたりの頑張る姿をみて励まされた」でもいいし「応援していたキャラクターたちの輝く瞬間を見て、よかったね」でもいいです。

あるいはアニメでバレエや薙刀を見られておもしろかったということもあるかもしれません。

今回の映画は、映画館でしか体験出来ない映像と音楽を意識しているところでもあるので、フジコや千鶴といっしょに100年前のパリを共有し、ともに時間を過ごしたことを楽しんでもらえればうれしいですね。

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