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誠お兄さんが聞く!鬼塚大輔監督&釣井省吾監督インタビュー
誠お兄さん
今回アニメーションとして動いている『オチビサン』を観て、世界観がすごく可愛くて癒されて、キャラクターもすごく愛らしく思いました! 1つ1つのお話は短いですが、物語がきちんとあり、大人が楽しめることはもちろんだと思いますが、子どもたちにもとっても楽しんでもらえるんじゃないかなと。
なので、アニメ化することで、これまで以上に愛される作品になっていくと、僕もすごくわくわくしています。
本日はよろしくお願いします。
鬼塚監督
アニメ『オチビサン』監督の鬼塚です。よろしくお願いします。
私は春と夏と秋のパートを担当しています。
釣井監督
同じく監督の釣井です。自分が担当しているのは冬のパートですが、全話数を通して鬼塚さんと一緒にディレクションをしています。
鬼塚監督
3Dセルの色のコントロールは釣井くんが全季節で指揮をとってくれています。
【安野モヨコ先生の世界観を表現するために】
誠お兄さん
本作は安野モヨコ先生の原作ですが、アニメ化するにあたって工夫した点や安野先生からのご要望はありましたか?
鬼塚監督
もちろんキャラクターに対する監修もありましたが、特に背景にこだわりのリクエストをいただきました。安野先生は原作『オチビサン』でも、型を切り取って色を載せていく「版画的な手法」(※1)を取られていまして、通常のアニメの美術は水彩画が多いので、当初水彩を提案したのですが、版画調にしてほしいというオーダーをいただきました。
ですので、一般的なアニメ作品とは違って、本作の美術は新版画風に作っています。
版画らしさをどうやってアニメで表現するかという技術はこだわっているので見どころです。
(※1:フランスで確立されたポショワールは、金属板を型抜きしてステンシルのように着彩するもの。オチビサンでは紙の板にアレンジして、自己流の技法を生み出しました。
技法の詳しい説明はこちら 参考:大村美術館 / 作業の様子はこちら)
誠お兄さん
新版画風にするのは、水彩と比べて時間がかかるのでしょうか?
鬼塚監督
安野先生が求める版画の感じを出す検証に相当な時間をかけましたが、テイストが決まった後は、美術のスタッフの方々がとても素晴らしいので、想像以上の美術が出来ています。
釣井監督
美術チームの方々がとても素敵な感じに仕上げてくださっていますよね。
鬼塚監督
新版画調なので、割とぼけてないというか奥までパッキリと絵が出ていると感じてもらえるのではと思います。あとは、版画だと擦り残しがあって型がずれたりするので、今作の美術もわざと輪郭をはみ出したり、白く抜いた部分を入れていたりしています。
誠お兄さん
そうだったんですね!
オチビサンたちの目や、オチビサンの下半身の黒塗りが、普段よく観るアニメとは違って、ずっと動いて変化していますよね? 表現が不思議だったのですごく気になったのですが、あれも版画調を目指したからでしょうか?
鬼塚監督
そうです。美術も含めてですが、原作がそもそも版画の手法(ポショワールの技法)を使って、1枚1枚刷って作っているという前提があり、先生からもアニメでもそういったテイストで作ってくださいとお話をいただきました。
キャラクターに関しても、版画の紙をそれぞれ新しく作り、1枚1枚刷って1コマずつ作っているようなイメージにしたく、そういった揺らぎを常に全コマに入るように作っています。
通常のアニメでは各コマが繋がるように作っていますが、今回は紙の質感を入れて、わざとそのように見える表現を取り入れています。
あとは、原作でもそれぞれの四季にたくさんエピソードがあるので、どのエピソードをアニメにするのかを選ぶのが大変だったんですよ。毎週ミーティングして、どのエピソードをどの話数に入れるか苦労しました。
釣井監督
そうでしたね。本作は1話5分のアニメで、1話につき4~5つくらいのエピソードで構成していますが、かなり話し合っていましたよね。
鬼塚監督
四季に合わせて、1話ごとの構成を考えるのに10から12ぐらいのエピソードを候補に出してね。笑
釣井監督
多くのエピソードの中で、1話の構成としてどのエピソードを組みわせるのが最適解なのかを、全話検証して、ベストな組み合わせを模索していきました。季節ごとにエピソード数と順番も毎話ごとに相当こだわって選ばせていただきました。
鬼塚監督
原作がカラーで描かれていることもあり色がとても綺麗なので、この配色で、このエピソードが繋がったら構成がより綺麗になるのではと考えて作りましたね。
原作にはちょっとした笑いの中にも哲学的な要素も入っていたりと様々なメッセージが込められていたりするので、それを生かしながら、なるべく再現しようと考えていました。
誠お兄さん
オチビサンが純粋な心を持っていて物事に対して楽しむ姿が印象的です。
僕もそんなオチビサンたちがすごく楽しそうだなと観ていたのですが、各エピソード1つ1つに何か寂しさも感じました。
四季がある日本で生活をしているからか、自然と密接な関係にいる中で起こる様々なことがすごく心に響きました。安野先生が「四季」をすごく大切にされているということですよね。
釣井監督
そうですね。僕たちも安野先生が「日本の四季の移り変わり」を大切にされていると感じていました。
原作を読んでいると、その季節で出てくる花のエピソードや、季節折々の特徴的なお話がふんだんにありますし、原作に込められた安野先生の気持ちは大切にしています。
鬼塚監督
特に植物にはこだわってらっしゃるのを原作から感じていたので、アニメでも綺麗に表現しようと特に力を入れました。
【3DCGアニメーションでも手書きの温かさを生み出す】
誠お兄さん
本作は3DCGアニメーションで表現しているとうかがいましたが、手書きのような温かみを感じました。美術を新版画調にしていることと似た部分があるかもしれませんが、制作で心がけた点を教えてください。
鬼塚監督
一般的な3DCGのアニメーションはコマ数が1秒24コマなのですが、それを今回は1秒8コマにして枚数を減らしています。それがテレビのセルアニメに近い印象を作っていると思います。
釣井監督
あとは、四季をしっかり出すことが大切なお話なので、季節ごとに固有色を用意しています。オチビサンたちが室内にいるときの色や、夕方の色だったり夜の色だったりと、各々の季節と時間ごとで変えているので、温かみに繋がっているのではと思います。色にはすごくこだわらせていただいているので。
鬼塚監督
当初はシーンの色を減らそうと思っていました。でも美術で素敵なものが上がってきて、これはもう美術に合わせて色を作るしかないとなりまして、後半になってどんどん色が増えていったという経緯があります。笑
釣井監督
エピソードによっては、「冒頭は昼間、その後夕方から夜になる」という時間経過のあるものもあり、その時間のシーンは1カットしかないけど、そのシーン用に数種類の色を作ってもらうということをしています。ここまで色を付けることはCGだとなかなかやらないので、そういうところが絵画的に感じられるのだと思います。
鬼塚監督
構成上どうしてもシーンが増えてしまっていますし、美術の枚数も多いし、色数も多いしと、ちょっとハイカロリーになってしまったところはあります。笑
あと、3DCGではあまりやらないですが、たくさんの小物を作りましたね。
昭和という時代設定もあり、そこにもこだわって結局300種類ぐらい小物を作ったと思います。
誠お兄さん
300種類? すごく多いですね。
なかでも作るのにこだわった小物はありますか?
釣井監督
すべてにこだわっているので、特にこだわった小物をお伝えするのは難しいのですが、特徴的な身長のオチビサンたちと並べて、サイズが合っているかなど、スケール調整にはかなりこだわりました。
小物のそれぞれの高さなど、最初はリアルにちゃんと作ってはいたのですが、オチビサンたちと並べて、小物ごとにそれぞれ小さくしたり、大きくしたりと試行錯誤を繰り返しました。笑
鬼塚監督
1回しか登場しないものも作っていましたね。
本当は、いろいろなシーンで使い回しが出来る小物ばかりであればよかったのですが、1つのエピソードにしか出てこない物も、それ用に1つ1つ作ったことは大変でしたが、こだわった甲斐がありました。
あとは、オチビサンたちの部屋は全部3DCGモデルを作っています。原作には見取り図はないので、原作で描かれた部屋を見ながら色々検証して、オチビサン、ナゼニ、パンくい、おじいの4軒のモデルを建てました。
誠お兄さん
約5分のストーリーの中でこれだけのこだわりがあるのか、ということにすごく驚きました。これまで完成されたアニメしか観たことが無かったので、制作の過程を知ると、言葉が雑になってしまいますが、嘘でしょ?!と思いました。
【鎌倉のどこかにある豆粒町のこだわり】
誠お兄さん
本作は、鎌倉のどこかにある豆粒町が舞台ですが、豆粒町を描く上でこだわりはありましたか?
鬼塚監督
鎌倉にはロケハンに行って色々な写真をたくさん撮ってきました。その写真を採用している場所もありますし、想像で描いているところもあります。
スタジオカラーの特色なのですが、資料を集めるために、主要スタッフでロケハンに行くのです。そこで撮影した写真を元に、設定やレイアウトを起こしていきます。
釣井監督
僕らがロケハンに行けないときは制作部の方たちが、もう手当たり次第、どれくらい調べてくれたかわからないくらい、超大量のロケハン資料を用意してくれます。
そこから、ここは自分たちの目で実際に見に行きたいところを選定して実際にロケハンに行って、無数に写真を撮り、ひたすら検証して、鎌倉の空気感を作品に出しています。
豆粒町は現代というよりは、昭和感というか懐かしさを感じられる鎌倉が舞台でして、当然、現在の鎌倉と昭和の鎌倉は違うと思いますが、似ているところもあるんだろうなと。
鎌倉は昔の文化がそのまま残っている場所も数多くありますし。
そのようなところをしっかりロケハンで確認して、作品にフィードバックしています。
エンディングには実際の鎌倉にある場所をロケ地として描いています。
誠お兄さん
きちんと鎌倉を再現するために全てのシーンでロケハンをしているということでしょうか?
鬼塚監督
全部ではないですが、ポイントで「このシーンはあの場所だよね」と気づくところがあるといいなと思って入れています。豆粒町は鎌倉の架空の町なんですけどね。笑
釣井監督
ネット上のマップを見るだけだと、どうしてもよくわからない場所も、実際に行ってみて、ネットではわからなかった風景を写真に撮ることで面白さが見出せるという発見もあります。
実際にその場所へ行ってみないとつかめない感覚かなと思っています。
鬼塚監督
江の島がエンディングで出てきますが、展望灯台の形が昔と今では違うので、昔の展望灯台の形状にしたり、夜のシーンも街頭などのライトの数は多分今より少ないだろうと思って光量を減らしています。
【世代を超えて観ると楽しいかも?!】
鬼塚監督
「オチビサン」は昭和の設定なので、時代背景も出せたらと思っていて、家の中にあるものなど、割と昭和らしさを感じるようにしていたりします。
誠お兄さん
僕は子どもたちと関わる活動をさせていただいているからか、「オチビサン」を子どもたちにも楽しんでもらいたい! と思っています。子どもたちにも楽しんでもらえるポイントは何かありますでしょうか?
昭和の設定だと今の子どもたちは知らないものが出てきますよね?
釣井監督
シリアスなお話一辺倒ではなく、コミカルなエピソードも必ず入っているので、子どもにもちゃんと楽しんでもらえると思います。ただ、エピソードによってはメインで扱われている小物などは今の子どもが知らないものがあるかもしれません。笑
鬼塚監督
昭和のかき氷機はわかるかな? 作中のデザインとか見たことないかもですね。笑
釣井監督
親御さんと一緒に観ていただいて「あれは何なの?」と話のネタにしてもらいたいです。
鬼塚監督
レトロなものが流行ったりするので、知るきっかけになるといいのかもしれないですね。
釣井監督
そうですね。昭和の世界観に子どもたちが興味を持つきっかけになったら、それはそれで嬉しいです。
誠お兄さん
それはすごく共感しました! 僕が関わっていた番組も60年以上続いてきて、作られてから年月が経った歌も歌い継いでいるので、歌詞の中で、子どもたちが聞いたことのないものが出てくることもたくさんあります。
子どもたちはそれに対してすごく興味を持ってくれることがあって、「オチビサン」と共通の部分があると感じました。
観る前は「オチビサン」はすごく大人向けの作品なのかなと思っていたのですが、実際に観てみると世代を超えて楽しんでもらえる作品なのだと思いました。
子どもたちは自分の目線でオチビサンたちに投影しやすいと思いますし、アンバサダーとして、子どもたちにもこの作品が知ってもらえたらうれしいですね!
【長く使えないのが残念…!豪華スタッフが贈る主題歌】
誠お兄さん
主題歌も「四季」を感じる内容ですよね。
しかも、作曲が森山直太朗さん、作詞は内田也哉子さん。本作品は主題歌も豪華なメンバーでびっくりしたのですが、お2人は主題歌を初めて聞いたときどう思われましたか?
鬼塚監督
正直、想像と全然違っていたんです。とてもおしゃれな曲に仕上がっていて。
依頼したときお伝えしたのは、和のイメージや鎌倉のイメージの話をしていたので。
釣井監督
森山さんご自身がいろいろ悩んでくださったそうで、上がってきたものを聞いてみたら想像以上におしゃれな世界観で、こういう解釈もあるのかと気づかされました。
当初はオープニングとして発注させていただいたのですが、曲を聞いてみて、お話の最後に聞きたいと感じられる曲調と歌詞の作りだと感じました。ですので、こちらから今回の曲はオープニングではなくて、エンディングとして使わせてもらってもいいですか? と提案しました。
鬼塚監督
どうしても作品の構成上、エンディングでは18秒しか曲を使えないため、どこのフレーズを使用するのかということも、森山さんに相談させていただき、森山さんに選んでいただきました。
誠お兄さん
夜にこの主題歌を聴きながら、お酒をのむ。みたいな楽しみ方もできそうだなと思いました。笑
釣井監督
おしゃれですね。笑
確かに、ちょうど1日の終わりにいい曲ですよね。
【主役は「オチビサンという世界観」】
誠お兄さん
最後に本作をご覧の皆様へメッセージをいただけますでしょうか?
鬼塚監督
1コマ1コマに時間をかけ、美術も相当こだわっています。
お話もさることながら綺麗な絵を楽しんでもらえると監督として嬉しいと思っています。
釣井監督
キャラクターたちが主役であり、豆粒町という世界感そのものも主役であり、それが色や技術、美術をこだわりたいという思いに繋がっています。ですのでお話と一緒に「オチビサンという世界観」も楽しんでもらえると、作り手側としては、作った冥利につきます。
誠お兄さん
本日は、普段なかなか聞けない貴重なお話をどうもありがとうございました!