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オフィシャルインタビュー【第1回】小林裕介さん 梶田大嗣さん 矢野優美華さん 鼎談

共闘する運命だった3人

矢野 私は小林裕介さんと同じ事務所で、事務所に入った時からずっと裕介さんの背中を追ってきたんです。うちの事務所はみんな仲がいいので、お兄さんみたいな存在です。

小林 でも僕の第一印象は怖かったんでしょ?

矢野 初めてお会いした日、裕介さんがあまり体調がよくない様子でしたが、集中してお仕事をされていて、その中でも「もう一回お願いします!」っておっしゃっている様子がすごい気迫で。小林さんって怖い人なのかもしれない…って思ったのが第一印象ではありました(笑)。

小林 確かにうちの事務所は、先輩後輩関係はあるけれど、みんなで気楽に食事に行ったりできる関係性もあるよね。矢野さんとレギュラーで一緒に仕事するのはこれが初めてだけど、僕としては「ようやく来てくれたか」と思えて嬉しかったよ。

矢野 わーん、お兄ちゃん優しい!

小林 今日やりづらいなぁ(笑)。

梶田 その関係性、うらやましいです! 僕も小林さんとご一緒するのは今回が初めてですが、小林さんの出演作品をずっと見てきたのですごくうれしくて。初めてお話ししたときは、なんて優しい方なんだろうと思いました。

小林 僕が演じる戦闘員Dは一応、悪役なんだけどね(笑)。梶田くんは最初からリスペクトオーラ全開で来てくれて。僕は人見知りするタイプなんですけど、梶田くんは積極的に話しかけてくれて助かりました。それに戦闘員Dと桜間日々輝は一蓮托生みたいな役なので、梶田くんのほうから意見を交わしに来てくれるのは僕としてはすごくありがたいなと思っています。

梶田 収録が終わった後、「ちょっとお話できませんか」ってお願いして、ご飯に行かせていただいたりもしましたね。何もかも頼るのは良くないなと思いつつ、何かあった時はやっぱり相談させてほしいです。いい距離感を作っておきたいんです。

小林 桜間日々輝を体現したような優等生ぶり(笑)。二人は、この作品の前からすでに面識があったんだって?

梶田 実はそうなんです。僕が最初に入った養成所で同期生でした。

矢野 同じクラスで一緒に2年間学んでいたんです。

梶田 (養成所で)舞台をやったんですが、僕と矢野さんでダブル主演みたいな形だったんですよ。しょっちゅうケンカしたよね(笑)。だから『戦隊大失格』で再会したときは驚きました。知り合いだと知ってホッとした部分と、成長したところを見せないといけないなという思いが湧きました。

矢野 私は二人とも知ってる人だったので、よかったという思いが一番でした。オーディションで錫切夢子役に選んでいただいたんですが、その決定を聞いた時に初めて、日々輝役は梶田くんだと知りました。原作を読んでいたとき、日々輝って誰になるんだろうってずっと考えていたんですが、梶田くんだと知った瞬間に日々輝の声がすぐに想像できたんです。「日々輝はここにいたんだ!」って思いました。

梶田 嬉しいなぁ。矢野さんからこんなに褒められたの初めてですよ。

矢野 褒めてはいないよ〜。

梶田 褒めてないんだ(笑)。そんなところも夢子っぽいなと思いますよ!

 


それぞれの役の作り方

梶田 アフレコ前にこの3人とさとうけいいち監督との、本読みをするために集まりましたが、アニメで事前に本読みをするってあまりないことですよね?

小林 僕は初めての経験でしたね。さとう監督は僕たちと初だったので、どういう人たちなのか知りたいという意図が強かったのかなと思いました。だから台本も最初の3、4ページぐらいを読んだだけで、あとは緊張を解いてもらえるような雑談だったよね。「演じるキャラクターについてどう思う?」とか「どういうふうに演じるつもり?」とフランクに聞いて頂いたり、あとはさとう監督が考える『戦隊大失格』の世界観やテーマを教えていただいたり、共有させてもらう時間でした。

矢野 私、監督にたくさん質問しちゃったんですよね。自分でもめんどくさい性格だなと思うんですけど、夢子が知ってることは全部知っておきたくて。夢子の目的や事情についてどのキャラクターが知っていて誰が知らないのかとか。それによって夢子のしゃべり方も変わってくるし…。そうやって考えすぎた結果、このまま初回のアフレコを迎えていいんだろうかと思い悩んでしまって。初回アフレコの前日、深夜1時ぐらいに一人で大号泣しました。結局2時間ぐらいの睡眠で行き、誰からもわかるぐらい緊張もしていて。その後、第2話のアフレコの後に裕介さんにお話を聞いてもらったんですよね。

小林 そうだったね。

矢野 色々とお話を聞いてもらった結果、考えすぎてたなって。私がこんなだと、夢子にもその思いが乗っちゃうかもしれない。
意外と何も考えてない時もあるかもしれないという境地に至ってからは、演じるのが楽しくなりました。

梶田 ここからは、キャラクターをどう捉えて演じているのか聞いていこうと思うんだけど、じゃあ夢子について悩んだという矢野さんは、今は夢子のことをどう捉えてる?

矢野 登場キャラクターの中でも一番、夢子が何を考えているかわかりにくいキャラクターだと思うんです。そのキャラクター性をつかむ上でまず悩んだのが、夢子の目的がわからないことでした。その後の読み合わせのときに、(原作サイドに)これから描かれるであろう夢子の目的を教えていただき、やっと彼女の行動原理がわかりました。それならこのセリフは含みを持たせなくていいなとか、ここは本心で言っているセリフだなとわかったので、それからはお芝居が作りやすくなりましたね。それでもまだわからないことが多いので、もう春場ねぎ先生に直接伺いたいぐらい(笑)。アフレコを重ねながら、演じるというよりも、夢子と重なりたいと願っているという感じですね。日々輝はどう?

梶田 日々輝は戦闘員Dや周りの人たちに全身でぶつかっていくキャラクターなので、演じていてすごく楽しいです! 日々輝も謎があるキャラクターではあるけれど、日々輝は戦闘員Dと表裏一体。それに、大戦隊を正していきたい、人も怪人も等しく生きられる社会を作りたいっていう思いのもと、命をかけて奔走しているので、目的はすごくシンプルだと思っています。

矢野 日々輝ってまっすぐすぎて、意外と驚くような言動も見せるよね。戦闘員Dに言うことを聞かせたいあまりに、信じられないような行動をとるし…。

梶田 思い切りがよすぎるところがありますね。幼少期に色々とあった中で、怪人と人が等しく生きられる社会を作りたいと言えるってなぜなんだろうというのは、すごく考えました。自分がこうだと考える正義があったら、自分を犠牲にしてでも貫く人なんだろうなと思い、そこを大事にしながら演じています。

小林 戦闘員Dが日々輝の姿に擬態したときの、「日々輝D」は梶田くんが演じているんだよね。

梶田 日々輝は今言ったような感じでわかりやすく演じようと思っているんですが、反対に「日々輝D」はというと、あくまでも日々輝を演じている戦闘員D。念頭に置いているのは、戦闘員Dが日々輝と接しているときの感情なのですが、オーディションの時は日々輝のことはどこか「うさんくさいやつだな、いつも綺麗事ばかり言ってるな」と思っていたんです。そのときの気持ちを思い出しつつ、裕介さんのお芝居を常に観察しています。自然体としての戦闘員Dからフッと出てくる雰囲気とかは僕も取り入れていますね。

小林 そんなに見られてるんだ(笑)。

梶田 スタジオではもう、瞬きしてないんじゃないかっていうぐらいガン見しています。スタッフさんにも無理を言って、これまでの収録データを聴かせていただきました。自分なりに特徴やリアクションを研究していますが、裕介さんの戦闘員Dは本当に深みがあるんです!

小林 僕はここ数年、取材などで「悪役をやりたいです」って言ってきたんです。やっと念願叶った…と思ったら、戦闘員Dという。最初はなんだか端役の戦闘員みたいな印象でした。彼は幹部ではないし、すごい力があるわけでもない。
怪人側の末端のキャラクターだけれど、大戦隊を倒してゆくゆくは世界征服するという野望を抱いている。戦闘員としてちゃんと信念を持っているキャラクターでありつつ、この世に生み出されてから13年間ずっと負け続けてきたので、負け犬根性みたいなものもあるんですよね。
さとう監督から言われたのは、「中学生のようにちょっと斜に構えた、擦れた感じ」。戦闘員同士でしゃべっているときも、心のどこかで「俺はお前らと違う」と思っているけれど結局中学生レベルの域なんだ、と。僕が最初に考えていた戦闘員Dのキャラクター像はそれとはちょっと違っていて、戦闘員の中でひとりだけ何かを背負っている、いい意味で浮いている感じなのかなと思っていたんですが、さとう監督は「それらをひっくるめて三の線で」ということだったので、第1話からいろんなことを試しながら演じました。言葉ではうまく説明できないので、梶田くんには申し訳なくて。

梶田 とんでもないです。見ているだけで勉強になります。

小林 僕としては、決してかっこよくなってはいけないというポリシーでやっています。どんなに見せ場のシーンであっても、あくまで悪役。見栄を切ってても、ちょっと残念なところが彼にはある。決して正義側ではないという思いを芯に持って演じていこうと思っています。

矢野 戦闘員Dって戦闘員のときは周りと同じビジュアルですし、見た目からキャラクター像を作れないですよね。

小林 そうなんだよね。「青年D」になるときもあるけど、それも擬態でしかないし。けど戦闘員姿の時って実はすごく表情豊か。そこで芝居の幅を狭めてしまうとつまらなくなっちゃうので、声よりもお芝居で納得していただけるものを作ろうと毎回チャレンジしています。
『戦隊大失格』はさとう監督が音響監督でもあるけれど、自由にやらせてくれるよね。

矢野 さとう監督って、アフレコで「本番よーい、はい!」って言うんですよね。声の現場で「本番!」って言う方ってあまりいないと思うんですが、私はそれを聞くと「よし!」とスイッチが入るので好きです。現場で一番元気なんじゃないかと思うぐらいエネルギッシュ。

小林 本番で甘噛みしちゃっても、止めずに最後までやりきってしまうというのがさとう監督のスタイル。キャストのみなさんの集中力がすごいのはきっと、「本番!」の掛け声ありきだよね。ただちょっと怖いのは、さとう監督ってちょっと噛んだくらいならそのまま使いたがるんです(笑)。

梶田 「気持ちが伝わればいいから」って。

小林 でも僕らとしては困ってしまうので、この作品はキャストからの自主リテイクがすごく多い。

梶田 みんなが次々に手をあげて「ここもう一回いいですか」って。僕、あまりに手をあげすぎて、監督に「梶ちゃん、なによ?」って言われます(笑)。

小林 キャストの声を積極的に採用してくれるだけに、僕らも責任を持たないといけなくなる。「今こうでしたけど、こういうパターンはどうですか」って言うと、「エモいねぇ。じゃあそっち行こう!」ってその場で変えられたりもするので、台本を読み込んで、自分の中で納得できるお芝居を提示しないと後々後悔しそう。
そんな現場もなかなかないので、やれるだけやって、わがままも言わせてもらっています。

 


他キャラクターのアフレコエピソードも…

梶田 裕介さんをはじめ素晴らしい先輩方に囲まれてアフレコをしているんですが、朱鷺田隼役の吉野裕行さんのお芝居は衝撃的でした。

小林矢野 (頷く)

梶田 エネルギーを本当に純度200%でぶつけられてる感じでした。見ていて感動するし、かけ合ってワクワクするし。これぐらいやっていいんだよって、教えてくださった気がしました。

矢野 ちゃんと「朱鷺田がいる!」って思えたよね。いっぱいいっぱいになってる私ですらそう思えるぐらい、吉野さんが端のマイクにいてもパワーが伝わってきて。声がついて大好きになったキャラ第1位が朱鷺田です!

小林 吉野さんと掛け合いでやった結果、僕自身も思っていなかったお芝居が出たことがあって。後で監督からも「予想の斜め上のお芝居が来てすごく楽しかったよ」って言ってもらいました。あとはなんといっても、中村悠一さん演じるレッドの存在感(笑)。

矢野 絶妙に腹立つけど、ちゃんとヒーローなんですよね。

小林 堂々とした、声からあふれる正義感。言ってることはひどいのに、納得しちゃう声のエネルギーがある。中村さんやっぱりすごいな…としびれました。

 


戦闘員Dと日々輝の異なる正義観

矢野 悪役であるはずの怪人が大戦隊に立ち向かう『戦隊大失格』ですが、裕介さんはこの作品のテーマについてどう思いますか?

小林 主観をどこに置くかによって見え方がガラッと変わる作品だけど、さとう監督の「戦闘員Dを主人公にすると、これはリベンジものなんだよ」という言葉を、僕はすごく意識しています。日々輝や夢子など戦隊員たちと触れ合って、心が揺れることもあるけれど、「お前らを倒して世界征服する」という気持ちを忘れない。「アニメでは、原作とは感情の描き方が変わるかもしれない」とも言っていたので、あくまでもリベンジものなんだということを大事にしています。だから大戦隊と共闘していても、モノローグでは「こいつ使えないな」ってあっさり切り捨てたりもする。僕はあくまでも戦闘員Dの主観を大切にしたいと思っているけど、二人はどう思ってる?

矢野 戦闘員Dってこう見えても13歳の男の子なので、人間で考えるといわゆる思春期。価値観もどんどん揺れ動く時期だと思うんですよ。それまで小さなコミュニティにしかいなかった人が、外に出ていろんな人たちと出会い、固まっていた価値観が変わっていく。それまでの自分を否定することにもなるから、葛藤が芽生える。実際、戦闘員Dって言っていることはめちゃくちゃだし、言動にも一貫性がなかったりする。でも誰よりも人間くさいキャラなんですよね。そんな戦闘員Dがこれからどんな成長をしていくのか、私はすごく楽しみなんです。アニメを観てくださるみなさんも、自分が13歳ぐらいの頃と重ねて観ると面白いんじゃないかなと思っています。

梶田 日々輝は正義観を幼少期は両親やドラゴンキーパーに委ねていて一見ブレているけれど、それってリアルだと思うんです。子供の頃は両親が正しいと思っていたけれど、戦闘員Dに出会ってからは、「これからは僕の信じる正義を信じます」と言えるようになる。アニメで初めて『戦隊大失格』をご覧になる方々は、何が正義で何が悪か、最初は混乱するかもしれません。だけど観ていく中で、それぞれの考え方を見つけられる作品になったらいいなと期待しています。

梶田 裕介さんにとってヒーローというとどんな存在が思い浮かびますか?

小林 僕は戦隊のレッドが大好きでした。子供の頃の夢は「レッドになりたい」だったしね。ずっと「アニメで主人公をやりたい」と言い続けてきたのは、主人公ってレッドのような存在だと思っていたから。具体的に誰というよりも、その立ち位置に憧れてきたんだよね。戦闘員Dは、見た目は黒だけどもしかしたら別の色に染まる可能性もある。レッドキーパーと再び相まみえることもあるのかな。そのときにどんな景色が見えるのか楽しみです。

梶田 僕にとってのヒーローはキャプテンアメリカと、父ですね。警察官としてヘリコプターのパイロットをしていて、休日も家族の買い物に付き合ったり、田舎で田植えをしたりと、とにかくパワフルで。実は、「警察24時」的な番組に父が出たことがあるんですが、災害時にヘリコプターで被災地に向かっている父の姿を見て、かっこいいなと思いました。

矢野 かっこいいお父さんだね。私はヒーローになりたいというよりもプリンセスに憧れながら育ってきた人間なんですけど、ヒーローもののアニメを観るとき悪役に感情移入することが多かったかも。悪役にもこの人だって頑張ってるんだよな、と思える人間くささがありますよね。悪役がいるからヒーローがいると考えると、私は悪役のキャラクターに親近感を感じます。

 


トークを終えて…

小林 作品への愛と、自分はこうしたいんだっていう欲がすごく強い二人だなと改めて感じました。まだそれをうまく形にしきれないときもあるかもしれないけど、大事なのはそこをちゃんと考えること。それって当たり前のようだけど、誰もが持っているものではないし、僕も二人に負けないように自分からどんどん提示していきたいなと思いました。
梶田くんには、「僕をマネできるものならやってみろ」と(笑)。僕の芝居は僕にしかできないと思っているので、梶田くんを振り切るぐらいの個性を、戦闘員Dというキャラクターに注ぎ込みたい。一緒に高め合っていけたら嬉しいですね。

梶田 かっこよすぎます! 今日お話しして、裕介さんは僕からまだまだ手の届かないところにいらっしゃるなと思ったし、絶対に追いかけたい背中だなと思いました。今後のアフレコでも食らいついていきたいです。

矢野 裕介さんの魅力は泥臭いお芝居、人間くさいお芝居だと思っています。『戦隊大失格』の中で一番、人間臭いのが怪人である戦闘員D。裕介さんの素敵なお芝居と戦闘員Dのキャラクターがリンクしているところが見どころなので、視聴者の方にはぜひそこを激推ししたいです。残りのアフレコでもそれが見られることがすごく楽しみです。

小林 戦隊が主人公であるならば、ゴールは決まっています。悪を倒し、世界に平和をもたらすことが使命だと思う。だけどこの作品は怪人が主人公。戦闘員Dは日々輝に「世界征服をしたその後はどうするんですか」と聞かれて答えられなかったんですよね。戦闘員Dは、幹部の「世界征服」という言葉に憧れているだけ。自分が初めて主体的に動くことになり、ゴールがどこなのかわからずにいるんです。それを探す物語でもあると思うので、ラストがどうなるかわからないところもこの作品の魅力。戦闘員Dが出す答えを僕も見守っていきたいし、それをどうみなさんが判断するか、感想も聴きたい。最後までみなさんと一緒にワクワクし続けたいですね。

【ライター:大曲智子】

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